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エレベーター 定期点検を追求するかで“今後”が決まります

六六年の年明けから激しさを増していた早稲田大学の紛争をはじめ、各地では反体制の声があがっていた。
またアジアに目を向ければ、四月には中国で文化大革命の嵐が吹き荒れ、紅衛兵が毛沢東語録をふりかざしていたし、ヴェトナム戦争は前年の米軍による北爆開始で泥沼化していたのである。
翌六七年、日本国内の対立はますます激しくなり、全国でストライキとデモの字を見ない日はないほどになる。
東京都では、革新系の都知事候補・美濃部亮吉が当選した。
そして中国からは、水爆の実験に成功というキナ臭いニュースが入ってくる。
ついで、東大紛争の口火となる医学部のストと、アメリカの原子力空母「エンタープライズ」の佐世保入港をめぐるデモのなかに六八年はあけ、三月には防衛庁の機密漏洩事件、四月には小笠原の返還協定に調印とつづいてゆく。
そういうときに宇宙開発委員会設置法は可決され、「宇宙の平和原則」は決議されたのである。
しかも国会内においても、これ以上はなかったと思われるほどの〝対立″がありながら、自民党、社会党、民社党、公明党の、超党派による合意だった。
裏舞台がどうだったのか、定かではない。
しかしはっきりとしているのは、〝宇宙産業″という発想が、政治家のあいだになかったことだろう。
当時の新聞記事をたぐってみると、与野党ともに議員のコメントとして載っているのは、軍用ミサイル開発の懸念ばかりである。
〝宇宙開発″は、すなわち核ミサイル開発であるかのような、過敏さだけが目立っている。
時代背景を考えれば、これもやむをえないことである。
ヴェトナム戦争をはじめ世界各地では紛争が頻発していたし、米ソの冷戦状態が強まるなかで、中ソの対立、そして中国の核実験である。
そのうえ米ソの宇宙開発がほとんど軍事を前提とした〝競争″になっていたように、当時の世界の宇宙研究は、軍事目的が中心だった。
さらにこの前年、すなわち六七年には、濃縮ウランの国産化とプルトニウムの製造による核燃料サイクルの確立を目的に、動燃(動力炉・核燃料開発事業団)が設立され、翌六八年から動きはじめていた。
ここまで見てくると、政治家のみならず世の中が過敏になるのは、ごく当然の反応だろう。
現在の北朝鮮が核ミサイル開発にかんして、〝限りなくクロに近い″と思われるように、当時の日本も内外が憂慮するだけの条件はそろっていたのだ。
こうした背景で、「宇宙の平和利用」の原則は、打ち出されたのだった。
以下は、関連する決議と法の抜粋である。
衆議院わが国における地球上の大気圏の主要部分を超える宇宙に打ち上げられる物体及びその打ち上げ用ロケットの開発及び利用は、平和の目的に限り、学術の進歩、国民生活の向上及び人類社会の福祉を図り、あわせて産業技術の発展に寄与するとともに、進んで国際協力に資するため、これを行なうものとする。
宇宙開発事業団は、平和の目的に限り、人工衛星及び人工衛星打ち上げ用ロケットの開発、打ち上げ及び追跡を総合的、計画的かつ効率的に行ない、宇宙の開発及び利用の促進に寄与することを目的として設立されるものとする。
ミサイルとロケットこれらの決議は、原子力基本法を叩き台としたものである。
原子力基本法は、核開発とエネルギー開発が紙一重という原子力のもつ危険性を考慮し、道をはずさないようにとはめた枠だ。
宇宙の場合は、大陸間弾道ミサイルの開発など軍事面に傾斜しないようにすることを、最大の目的としている。
衆議院の決議には、「あわせて産業技術の発展に寄与する」という文言はあるものの、当時はまったく注目されていない。
それから三十年、〝宇宙″はまったくかわった。
九八年の十一月にスペースシャトル「ディスカバリー」で、三十六年ぶりに宇宙飛行をおこなった七十七歳のジョン・グレンが、会に貢献するための実験をするのは、すばらしいことだ」と語っていた。
グレンは、まさに冷戦構造を背景に米ソが宇宙競争をしていたときの飛行士である。
かれの言葉どおり、状況はあきらかに変化したのだ。
しかし日本の「宇宙の平和利用」は手つかずのままである。
それでいて、その手つかずの網をくぐりぬけ、湾岸戦争のミサイルに象徴されるようなCCDカメラや半導体などを、アメリカの軍需産業に輸出してきた。
科学研究と軍事活動しか眼中になかった時代の網の目は、あまりにも大きく、大雑把すぎたのだ。
マクダネル・ダグラス杜もジェネラル・ダイナミックス社も、新型ロケットによって打ち上げるのは商業衛星である。
それは日本側にも伝えられていた。
しかし商業衛星を上げられるということは軍事衛星の打ち上げも可能であり、「平和目的に限定する」という原則に抵触すると判断された。
その結果、〝ロケット″の心臓部ともいえるLE15Aエンジンについては、輸出できないことになった。
当然、アトラスHにかんする話は破談である。
デルタHについても、第二段エンジンはプラット・アンド・ホイットニー社の「RL10B12」が採用され、日本が供給したのは三菱重工がHIHの技術をもとに製造した、直径四メートルのタンク系統だけだった。
この国の経済再建に必要なのは、中・長期的な視野に立てば、新しい産業の創出である。
そして宇宙産業は、その新産業となりうるところまで成長している。
芽をふいているといってよい。
現代の宇宙にあるのは、科学研究と軍事活動だけではない。
産業の場でもあるのだ。
そして日本には、LE15Aエンジンのように「商業衛星用」という条件を日本がつけることによって輸出できる技術も生まれている。
日本が、イニシャチプをとることができるのだ。
くくっていいのだろうか。
日本人には「平和利用」は〝葵の御紋″かもしれないが、水戸黄門の素性を知らない人には通用しない。
自国の平和を維持するための軍備を、「平和目的」とする国は少なくないのだ。
刃情緒的な表現によりかかって一件落着とするのは、「臭いものにはフタ」の論理と、なんらかわらない。
むしろ危険でさえある。
軍事用ロケットとはどのようなものをさすのか。
民生用ロケットとはどのようなものをさすのか。
これらの基準を、日本は独自の観点で明確にすべきである。
そうすることにより、他国のロケット開発にも積極的に協力できるし、諸外国の衛星打ち上げも受注できるはずだ。
新しい産業の芽を育てるためにも、「宇宙の平和利用」についてあらためて国会で論議しなければならない。
央線・国分寺駅にちかい旧陸軍の機関銃試射場跡で、ペンシルの発射試験はおこなわれた。
現在、その試験場跡は、新日銭のグラウンドとなっている。
やがて一九六四年の四月、生産技術研究所のロケット・グループは東大・駒場の航空研究所と合併して「宇宙航空研究所」となり、日本のロケット研究は新しい段階に足を踏み入れてゆく。
そして宇宙航空研究所は、観測用として開発した三段式の全段固体ロケット「ラムダ」による人工衛星打ち上げ計画に着手した。
その年の十月、世の中では東海道新幹線が開業し、同時に東京オリンピックが開催された。
つまり日本の社会が、高度成長期に入ろうとしていたころである。
そして翌十一月、政権はいっぽうアジアでは、八月に発生したヴェトナムのトンキン湾事件によりアメリカの介入はエスカレートし、北爆開始がちかづいていた。
宇宙航空研究所、すなわち東大のラムダ(LT4S型の一号機が鹿児島の内之浦から打ち上げられたのは、ヴェトナム戦争が激化していた一九六六年の九月だった。

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